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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第20章 第八話 【椿の宿】 其の弐

「私はお前さんのためなら、京屋の主人だという地位も立場も、店の身代だって捨てたって構やしねえ。元々、私は京屋の人間ではない。親戚筋にも大店の暖簾を継ぎたがっている輩はいるし、長年勤め上げてきてくれた番頭に身代を譲っても良い。今だから言うが、もう十三年も昔、私はお前のおっかさんにも同じようなことを言ったんだよ。先代の旦那から京屋の婿養子にと望まれていながら、そんな縁談(はなし)なぞきれいさっぱり断って、お絹さんと二人で端からやり直してえと。だが、お絹さんは当然のことだが、私よりは伊八さんを選んだ」
沈黙。言葉もなく、溜め息もなく、愕きの声さえも上がらない。
沈黙。言葉もなく、溜め息もなく、愕きの声さえも上がらない。

