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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第2章 第一話-其の弐-

本当は全部嘘だった。父に逢いたくないなんて、嘘だ。顔も見たくないどころか、毎日父のことを思い出さない日はなかった。あの男の占める場所が次第に大きくなりつつある今でさえ、父のことをきれいさっぱりと忘れられたわけではなかった。
「なあ、良い加減に家に帰ってこねえか? お前は一人で立派にやってるようだから、どうしてもここで今の勤め先の仕事を続けてえというのなら、俺はそれでも構わないが、通いの仕事なら甚平店に戻っても差し支えはあるめえ。昔のように父ちゃんと暮らして、家から店に通えば良いんじゃねえのか」
「―再婚でもしたいような良い女(ひと)ができたのなら、さっさと結婚しちゃえば」
お彩は父の話をろくに聞こうともしないで言い放った。
伊八は首を振った。
「前にも言っただろう? 父ちゃんは再婚なんぞするつもりはこれっぽっちもねえよ。
「なあ、良い加減に家に帰ってこねえか? お前は一人で立派にやってるようだから、どうしてもここで今の勤め先の仕事を続けてえというのなら、俺はそれでも構わないが、通いの仕事なら甚平店に戻っても差し支えはあるめえ。昔のように父ちゃんと暮らして、家から店に通えば良いんじゃねえのか」
「―再婚でもしたいような良い女(ひと)ができたのなら、さっさと結婚しちゃえば」
お彩は父の話をろくに聞こうともしないで言い放った。
伊八は首を振った。
「前にも言っただろう? 父ちゃんは再婚なんぞするつもりはこれっぽっちもねえよ。

