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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第2章 第一話-其の弐-

結局、その日は伊勢次はそのまま「花がすみ」から帰っていった。どうやら、喜六郎のあまりの浮かれぶりにすっかり度肝を抜かれたらしかった。
―いくら別嬪でも俺はあんな高慢ちきな女はご免だぜ。
以前、伊勢次が言っていたのを思い出し、お彩はひそかに微苦笑を浮かべながら長屋までの帰り道を辿った。
蜜色の黄昏時の光が川端の柳の樹をやわらかく包んでいた。お彩は通い慣れた道を通り、長屋の木戸口まで戻ってきた。その時、長屋前の細い路地に所在なげに佇む人影を認めた。長身の身体に少し背を屈めるようにして歩くその姿は紛れもなく父伊八に相違ない。
ふいに懐かしさと切なさが一挙に胸の奥から迸り出てきた。伊八はしばらく躊躇っていたようだが、やがて思い切った様子で家の中に入っていった。実の父親なのだから、娘の住まいに無断で入ったからとて何の不都合もないはずだ。
―いくら別嬪でも俺はあんな高慢ちきな女はご免だぜ。
以前、伊勢次が言っていたのを思い出し、お彩はひそかに微苦笑を浮かべながら長屋までの帰り道を辿った。
蜜色の黄昏時の光が川端の柳の樹をやわらかく包んでいた。お彩は通い慣れた道を通り、長屋の木戸口まで戻ってきた。その時、長屋前の細い路地に所在なげに佇む人影を認めた。長身の身体に少し背を屈めるようにして歩くその姿は紛れもなく父伊八に相違ない。
ふいに懐かしさと切なさが一挙に胸の奥から迸り出てきた。伊八はしばらく躊躇っていたようだが、やがて思い切った様子で家の中に入っていった。実の父親なのだから、娘の住まいに無断で入ったからとて何の不都合もないはずだ。

