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第43章 第十六話　【睡蓮】　壱

　それどころか、強引に傍に引き寄せれば、今度こそ市兵衛は、お彩の心さえも永遠に失うことになりかねない。今は市兵衛を愛してはいるけれど、共に歩くことはできないというお彩。つまり、市兵衛は、どうあっても惚れた女の心を手中にすることはできないのだった。諦めることもできず、さりとて、強引に我が物にしても心までは手に入れることができないと知った今、市兵衛はなすすべもなく、ただ己れの無力感を口惜しく思うしかない。
　商いにかけては天才的な閃きを持ち、凄腕の商人(あきんど)として知られる市兵衛も、思いどおりにはゆかないのが恋、たった一人の女であった。