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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第42章 第十五話 【静かなる月】 其の四

【四】
翌朝、市兵衛は夜明け前に帰っていった。吉原の女が共にゆけるのは大門までと定められている。大門まで見送ったお彩は、市兵衛の少し後ろを歩いていた。
ふと立ち止まった市兵衛が身を屈め、お彩の額にそっと口づけを落とした。
「また、近い中に必ず来る」
そう言い残して駕籠に乗り込んだ市兵衛をお彩は濡れた瞳で見つめた。四郎兵衛会所(見張り番や同心の詰め所、吉原から女が外へ出る際には、必ずここで切手(きりて)と呼ばれる証明書を貰う)の若い衆が意味ありげに自分を見つめるのを見、お彩は逃げるように見世に帰った。
翌朝、市兵衛は夜明け前に帰っていった。吉原の女が共にゆけるのは大門までと定められている。大門まで見送ったお彩は、市兵衛の少し後ろを歩いていた。
ふと立ち止まった市兵衛が身を屈め、お彩の額にそっと口づけを落とした。
「また、近い中に必ず来る」
そう言い残して駕籠に乗り込んだ市兵衛をお彩は濡れた瞳で見つめた。四郎兵衛会所(見張り番や同心の詰め所、吉原から女が外へ出る際には、必ずここで切手(きりて)と呼ばれる証明書を貰う)の若い衆が意味ありげに自分を見つめるのを見、お彩は逃げるように見世に帰った。

