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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第41章 第十五話 【静かなる月】 其の参

伊勢次さんが与えてくれたような温もりのある家庭、平凡で貧しくて、その日をやっと暮らしてゆくような毎日だけれど、夫婦が笑い合って過ごせるような、そんなささやかな幸せが私は欲しかったの。だけど、私は、その幸せをくれた伊勢次さんを心で裏切ったわ」
市兵衛が烈しい口調で言い募った。
「私には判らねえ。お前は私を今でも好きだと言う。それなら、何故、私の許へ帰ってこないんだ? 惚れてるなら、一緒にいれば良い。お美杷と親子三人で最初から始めれば良いじゃねえか」
「あなたのような人でも判らないことがあるのね。人の心は、やはり商いのようにはゆかないものね。陽太さん、好きだからという気持ちだけでうまくはゆかないのが人間の難しいところなんだって、私、今になって漸く判ったような気がするの。
市兵衛が烈しい口調で言い募った。
「私には判らねえ。お前は私を今でも好きだと言う。それなら、何故、私の許へ帰ってこないんだ? 惚れてるなら、一緒にいれば良い。お美杷と親子三人で最初から始めれば良いじゃねえか」
「あなたのような人でも判らないことがあるのね。人の心は、やはり商いのようにはゆかないものね。陽太さん、好きだからという気持ちだけでうまくはゆかないのが人間の難しいところなんだって、私、今になって漸く判ったような気がするの。

