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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第41章 第十五話 【静かなる月】 其の参

おしほの良人龍次郎(たつじろう)は京屋でかつて手代を務め、暖簾分けして構えた呉服問屋「宮古(みやこ)」の主人である。「宮古」という屋号も、初代が京都出身という京の都にゆかりの深い京屋の屋号にちなんでつけたものだ。この男は市兵衛が「陽太」と名乗っていた前髪立ちの時分からの友人で、丁稚として同じ釜の飯を食べ、切磋琢磨した間柄である。
友と呼べる存在が全くない市兵衛にとっては、稀有な人物であった。今もなお全幅の信頼を置き、良い相談相手でもあった。暖簾分けの話は早くから出ていたのだが、龍次郎本人がいつまでも市兵衛の下で働きたいと言い張るのを、数年前に無理に店を持たせたほどであった。
友と呼べる存在が全くない市兵衛にとっては、稀有な人物であった。今もなお全幅の信頼を置き、良い相談相手でもあった。暖簾分けの話は早くから出ていたのだが、龍次郎本人がいつまでも市兵衛の下で働きたいと言い張るのを、数年前に無理に店を持たせたほどであった。

