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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第40章 第十五話 【静かなる月】 其の弐

と、肥前屋は不敵に笑った。
「おやおや、こいつァ愕いた。うちの店を侮って貰っちゃア困るね。そんな、ちゃちな真似をするような店と一緒にしねえで欲しいよ」
肥前屋が一枚の紙を放ってよこす。お彩は眼前に落ちた一枚の紙を拾い上げた。
たった一枚のうすっぺらな紙―、この紙が、喜六郎が二十六年もの年月をかけて築き上げてきたものを一瞬にして打ち砕こうとしている。お彩は証文をひととおり検分したが、確かに何の訝しむ箇所も見当たらない。
喜六郎が富久三がこの店で三十両借りる際の保証人になること、もし万が一、金が期日までに払えない場合は抵当に入れている「花がすみ」を手放すこと―云々が事細かく箇条書きにされ、最後の保証人のところには、ちゃんと喜六郎自身の手跡で署名血判までしてあった。
「おやおや、こいつァ愕いた。うちの店を侮って貰っちゃア困るね。そんな、ちゃちな真似をするような店と一緒にしねえで欲しいよ」
肥前屋が一枚の紙を放ってよこす。お彩は眼前に落ちた一枚の紙を拾い上げた。
たった一枚のうすっぺらな紙―、この紙が、喜六郎が二十六年もの年月をかけて築き上げてきたものを一瞬にして打ち砕こうとしている。お彩は証文をひととおり検分したが、確かに何の訝しむ箇所も見当たらない。
喜六郎が富久三がこの店で三十両借りる際の保証人になること、もし万が一、金が期日までに払えない場合は抵当に入れている「花がすみ」を手放すこと―云々が事細かく箇条書きにされ、最後の保証人のところには、ちゃんと喜六郎自身の手跡で署名血判までしてあった。

