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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第40章 第十五話 【静かなる月】 其の弐

ひと月ほど前、喜六郎が妙にしけこんだ顔で筆屋の前を通りかかった。それで、おとみが心配して呼び止めると、喜六郎が思いがけぬことを打ち明けた。それが、今回の喜六郎の倒れた一件の因(もと)ではないかと、おとみは睨んでいるようだ。
富久三というのは、喜六郎の昔なじみだという。喜六郎が二十六年前、京都からはるばる江戸まで出てきた頃、知り合ったそうだ。江戸に出てきたばかりの喜六郎は、その頃、既に小さな店を持つことを考えていた。京にいた時分に働いていた料亭で得た給金を貯めたのと、退職金を合わせた金を元手にするつもりでいたが、適当な場所―店を建てる土地を探すのに時間がかかった。
富久三というのは、喜六郎の昔なじみだという。喜六郎が二十六年前、京都からはるばる江戸まで出てきた頃、知り合ったそうだ。江戸に出てきたばかりの喜六郎は、その頃、既に小さな店を持つことを考えていた。京にいた時分に働いていた料亭で得た給金を貯めたのと、退職金を合わせた金を元手にするつもりでいたが、適当な場所―店を建てる土地を探すのに時間がかかった。

