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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第39章 第十五話 【静かなる月】 其の壱

―修業中、包丁を握って板場に入っている最中には余計なことは一切考えるんじゃねえ。
それが喜六郎の口癖であった。ゆえに、こんな台詞を堂々と師匠である本人の前で口にすれば、いかほど怒られるかと覚悟していたのだが、喜六郎は何とも形容のしがたい笑みを浮かべたにすぎなかった。
「それも当たり前だろうよ。何せ、この世にたった二人っきりの親子だもの。たとえどれだけ離れていようと、心だけは誰も引き裂くことはできねえ。お彩ちゃんの心は、いつか必ずお美杷坊に通じるさ。それにしても、京屋の旦那も酷(むげ)え仕打ちをなさる。何も母親といとけない盛りの子の仲を裂くような真似をせずとも良いものを」
喜六郎は、しまいの台詞は何とも苦々しげに言った。
それが喜六郎の口癖であった。ゆえに、こんな台詞を堂々と師匠である本人の前で口にすれば、いかほど怒られるかと覚悟していたのだが、喜六郎は何とも形容のしがたい笑みを浮かべたにすぎなかった。
「それも当たり前だろうよ。何せ、この世にたった二人っきりの親子だもの。たとえどれだけ離れていようと、心だけは誰も引き裂くことはできねえ。お彩ちゃんの心は、いつか必ずお美杷坊に通じるさ。それにしても、京屋の旦那も酷(むげ)え仕打ちをなさる。何も母親といとけない盛りの子の仲を裂くような真似をせずとも良いものを」
喜六郎は、しまいの台詞は何とも苦々しげに言った。

