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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第35章 第十四話 【雪待ち月の祈り】

【仁しな】は京都では中流の料亭であるが、幸二郎の祖父の代から続く店でもあった。喜六郎は、十八の歳から実に二十八までここで働いて板前としての腕を磨いた。【仁しな】の主幸二郎は当時喜六郎より十上の二十八、基礎からみっちりと仕込んでくれたお陰で、喜六郎は一人前の板前として独り立ちできるまでになったのだ。いわば、恩人であった。
「それで、私ももう一人いた喜久松ってえいう若いのも暇を頂くことになりました。喜久松はそのまま京の別の店に移り、私も一緒にという誘いも受けたのですが、それを断って江戸に出て参りましたのが一年半前のことになります」
「何でえ。そんな前に江戸に来てたのなら、何でもっと早くに顔を見せてくれなかったんだ? 水臭えじゃねえか」
「それで、私ももう一人いた喜久松ってえいう若いのも暇を頂くことになりました。喜久松はそのまま京の別の店に移り、私も一緒にという誘いも受けたのですが、それを断って江戸に出て参りましたのが一年半前のことになります」
「何でえ。そんな前に江戸に来てたのなら、何でもっと早くに顔を見せてくれなかったんだ? 水臭えじゃねえか」

