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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第35章 第十四話 【雪待ち月の祈り】

「【仁しな】の旦那はお元気かえ」
「仁しな」というのは、京都で喜六郎と安五郎が働いていた料理屋の名前だ。そう訊ねると、安五郎は浮かぬ顔になった。
「そのことでさぁ。それが喜六郎さん、【仁しな】は、もう二年前に店を閉めまして」
「何だと?」
喜六郎は唸った。
「何せ、旦那ももうお歳でしたし、後を継ぐお人もいはりませんでしたし」
「だが、定次(さたじ)さんがいたんじゃねえのか」
「仁しな」の主人幸二郎には娘が一人しかおらず、確か、その一人娘お雪に同業の料理屋から次男坊を婿養子に迎えたはずだ。若夫婦の婚礼の直後、喜六郎は店を辞めたゆえ、定次の人となりもその後の顛末も知らない。
「仁しな」というのは、京都で喜六郎と安五郎が働いていた料理屋の名前だ。そう訊ねると、安五郎は浮かぬ顔になった。
「そのことでさぁ。それが喜六郎さん、【仁しな】は、もう二年前に店を閉めまして」
「何だと?」
喜六郎は唸った。
「何せ、旦那ももうお歳でしたし、後を継ぐお人もいはりませんでしたし」
「だが、定次(さたじ)さんがいたんじゃねえのか」
「仁しな」の主人幸二郎には娘が一人しかおらず、確か、その一人娘お雪に同業の料理屋から次男坊を婿養子に迎えたはずだ。若夫婦の婚礼の直後、喜六郎は店を辞めたゆえ、定次の人となりもその後の顛末も知らない。

