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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第31章 第十二話 【花見月の別れ】 其の弐

だが、その伊勢次はもうこの世の人ではない。
お彩が伊勢次を死なせたのも同然だ。
伊勢次こそ、市兵衛がけして与えてくれなかった人の心の温もりを与えてくれた唯一の男であったのに―。
お彩の話を聞いているのかいなかのか、おきわの反応はまるで無頓着であった。が、お彩は、それでも思いつく限りのことを面白おかしく喋った。伊勢次がしてくれたように、あの滑稽な話しぶりを真似て、大仰にまくしたてた。
しまいには、おきわは煩くなるものか、お彩に背を向けてしまう。眠っているのかどうかは判らなかったけれど、あまり病人を疲れさせるのもどうかと思い、お彩は話を止めて、また内職の続きに取り掛かるのが常であった。
お彩が伊勢次を死なせたのも同然だ。
伊勢次こそ、市兵衛がけして与えてくれなかった人の心の温もりを与えてくれた唯一の男であったのに―。
お彩の話を聞いているのかいなかのか、おきわの反応はまるで無頓着であった。が、お彩は、それでも思いつく限りのことを面白おかしく喋った。伊勢次がしてくれたように、あの滑稽な話しぶりを真似て、大仰にまくしたてた。
しまいには、おきわは煩くなるものか、お彩に背を向けてしまう。眠っているのかどうかは判らなかったけれど、あまり病人を疲れさせるのもどうかと思い、お彩は話を止めて、また内職の続きに取り掛かるのが常であった。

