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第4章 未達の悦び

指摘をしようと立ち上がったとき、遠くで雷鳴が響いた。
時計を見ると午後七時半。
カーテンを開けると雨雲が広がった空は今にも降りだしそうに淀んでいた。

秋彦は希美のデータレポートと共に車のキーを手に取り、ライトブルーの麻のジャケットを羽織る。

ゼミ室のドアを開けるとまだ多くの学生が残っていた。
希美もまだ残っており、部屋にやって来た准教授に聡明な目を向けた。
長い髪に卵のような形の顔。低い鼻と小さな唇がいかにも和風な印象を受ける。
そんな地味な風貌を少しでも華やかせようと赤いフレームの眼鏡をかけていた。

「十河さん。このデータですけど」
「はい……あっ!?」

具体的な指摘を受ける前に自分の間違いに気付いた希美は恥ずかしそうにレポートを受け取る。

「すぐ直しますっ……」
「まだ学会までは時間もあるので急がないよ」