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琥珀色に染まるとき
第23章 いつか無色透明の愛が

その言葉に心臓を鷲掴みにされたとき、店の扉が開く音がした。直和とルルがそちらを見て、そろって満面の笑みを浮かべる。
「……涼子?」
その聞き慣れた声に驚いて振り返った瞬間、目に飛びこんできたのは、旅行鞄片手に佇む黒いロングコートの長身。ちょうどカウンター席から立ち上がった客とぶつかりそうになった彼は、“Excuse me”と小さく呟き、客の間をすり抜けて駆け寄ってきた。
「……っ」
思わず席を立ち、呆然とする。それから視界が潤みに覆われるより先に、その腕の中に強く閉じこめられた。彼のぬくもりと匂いは、いとも簡単に涙腺を壊してしまう。
「お前、なんでこんなところに一人で来たんだよ」
「かげ、ひと、さん……っ」
「ばかだな……」
吐息混じりの切なげな声が、脳内に優しく響く。
「Hi, Clay. I’ve missed you so much」
「Hi, Lulu. Me, too」
「久しぶりだな、景仁。奇跡的に涼子さんと会えたよ」
「見ればわかるさ」
ルルと直和、順に再会の挨拶を交わす彼の声が聞こえる。
ああ、やっぱり――と、涼子は思った。急に緊張の糸が切れたような脱力感を覚える。
ほかの客がなにやら愉しげにこちらを眺めているのに気づき、涼子は西嶋の腕から逃げると、嬉しそうに見つめてくるルルの隣に座った。前には直和の笑顔がある。
その隣に腰を下ろした西嶋は、コートのポケットからスマートフォンを取り出した。長い指で軽やかに操作すると、画面をこちらに向けて微笑んだ。

