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琥珀色に染まるとき
第23章 いつか無色透明の愛が

注文を受けた店主はボトルを手に取り、ショットグラスに注いだ。グラスから少し溢れるように入れてくれるのが、なんとも粋である。
カウンターの上に差し出された小さなグラス。明るい琥珀色の輝きを放つそれを手にして、口に運ぶ。
スモークは薄く、シトラスや若葉の爽やかで繊細な香りが立ちのぼる。口に含めば、アーモンドやキャラメルのような甘さ、シトラスの甘酸が漂い、ナッツ類のようなドライな香りの余韻が鼻腔に長く残った。
店主に頷いてみせると、彼は微笑み返してくれた。
ふだんより早く飲み進めてしまうのはなぜだろう。ショットグラス、店内の心地よい喧騒、あるいは心の底で持てあます寂しさのせいだろうか。
新たに入ってきた一人の客が、涼子と反対側の端の席に座った。店主が離れていき、接客を始める。その親しげな対応の仕方で、地元の常連客だろうと予想できる。
注文を受けた店主は、一本のウイスキーボトルを手にした。黒いラベルに赤い銘柄名、その下に白く“105”と記されたそれは、グレンファークラス・カスクストレングスだ。
客の相手を終えた店主が、こちらに戻ってきた。
「ここには観光で?」
「はい」
「天気が悪くて嫌になるでしょ」
親しげに話を振る店主に、涼子は笑みを返した。
「いいえ、ここの雨は嫌いじゃないです。私の国の雨は、もっとこう……重たい感じがするんです。気のせいかもしれないけど』
それを聞いた店主の目が光る。
「それって、日本?」
「どうしてわかったんですか」
「さっきそこに座った彼が、以前似たようなことを言っていたから」
その声に気づいた常連客が、カウンターに乗り出すようにしてこちらに顔を向けた。グラスを軽く上げて言葉なく微笑むその人は、六十か七十代くらいの日本人男性だった。品のある笑みに妙な親しみを覚えながら会釈を返し、店主に二杯目を注文する。
「あの方と同じものを」

