この作品は18歳未満閲覧禁止です

- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
星と僕たちのあいだに
第10章 揺らぐ鬼火
滝沢自身、自分の言葉に驚いていた。
胸のうちでつぶやき続けた言葉が思わず声になってしまい、何を言っているのかと、吐いた言葉をかき集めて飲みこみたくなった。
だが言葉はよどみなく、滝沢の口をついて出てきた。
それは、滝沢の心情を正確に表したものだった。
『おつきあいなさってる方、
おられるんでしょうか。
もしそうだとしても、
私の気持ちが変わるわけじゃありません。
私に少しも望みがないのなら、
今、そう仰って下さい。
篠原さんにご迷惑をかけるようなことなら
潔く身をひきます』
そして咳払いしたあと、
『私は篠原さんが好きです』
と、滝沢ははっきり言った。
――――(あぁ、滝沢さん……)
くしゃっと胸の奥で音がして、麻衣は固く目をつむった。
脱獄の計画をたて、準備をすすめ、決行直前に捕らえられたような無念さがあった。
されども、自分には捕らえられることを期待しているふしがあった。
心のどこかで待ち望んでいた言葉ではなかったか、という気がした。
ようやく息を整えた麻衣は、なおも続く動揺を抑えながら、どうにか言葉を紡(つむ)いだ。
『滝沢さんは、
私のことを好きなんじゃありません。
直樹クンが懐(なつ)いてくれてるのは、
私がママに似てるからで、
滝沢さんがそう仰るのも、
奥様と私が似てるからです』
『それは、取っ掛かりです。
問題にはなりません』
『滝沢さんは、
私のことをご存知ないんです』
『はい。
だからもっと知りたいです。
でも篠原さんがどんな人であるか、
私にはだいたい解ります。
天稟(てんぴん)は偽れません。
他のことは私の思いに関係しません。
その上で私が篠原さんに感じるのは、
篠原さんを好きだということです』
思うままに答えた滝沢であったが、最後のひとことには思いのたけが込められていた。

作品検索
しおりをはさむ
姉妹サイトリンク 開く


