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水蜜桃の刻
第11章 その視線

「そんなことしたらすぐ酔いが回るよ」
「え? あ、うん……!」
すぐに振るのを止めて、先生を見れば
「ん、素直」
途端に、伸ばされてきた手がそのまま私の頭へ。
ぽんぽんと頭を叩かれる。
……っわ、と思わず小さく声が漏れ、慌てて口を押さえた。
どくんどくんと鳴り始める心臓の音のうるささ。
いろいろと誤魔化すようにお酒をまたこくりと飲んだ。
先生と話すのは楽しい。
私の知らないこと、教えてくれるのが嬉しい。
話上手で、聞き上手な先生。
私の話には優しく相槌を打ってくれる。
好き。
……大好き。
どんどん、先生に惹かれていく。
昨日より今日、そしてきっと今日より明日──そんなふうに私は先生を好きになっていくんだろう。
先生は仕草がいちいち色っぽい。
お酒を傾けるときの顎のラインも。
少しだけネクタイを緩めた手つきも。
私を見るその……目も。
笑みを浮かべる口元も。
それは、私が先生を『そういうふう』に見ているからそう思ってしまうんだろうか────。
あんまりお酒に強くない私は酔わない程度に楽しんだ。
先生との初めての飲みだったから、ちゃんと全部覚えていたかった。
そして結局、お酒が強いらしい先生の酔った姿は見られないまま、私たちはそのお店を後にした。

