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唇に媚薬
第2章 不器用プリンス
鈴木 蓮(すずき れん)
入社して8年、俺の同期。
鎬を削ってここまでのし上がった戦友に、至って真面目に聞いたつもりだ。
……が
「瀬名」
精悍な顔に、ふっと優しさが宿る。
「天候が安定しているこの時期は、オーロラの出現率が高い」
「……は?」
「来週カナダだろ。
滞在期間延長して行ってこいよ、イエローナイフ」
「…………」
「宇宙が創り出す神秘を目にしたら
心身共に洗われて、また頑張ろうって思えるさ」
蓮の発言で、周りの同僚達が堪えきれず吹き出した。
夜の8時。
残業の始まりで淀んでいた社内の空気が、瞬く間に晴れ渡る。
「……別に病んでねぇよ」
周りを睨みながらそう呟くと
「余計に心配だな。
一緒に行ってやろうか」
ネクタイを緩めて、蓮は笑った。

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