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余熱
第9章 忘れる

この感覚は何だ。
ただ少しばかり熱のこもった吐息を聞いただけだというのに、
耳が、体が、細胞が、
ずわん、と熱くなると同時に、ひたひたと何かで満たされていく。
「やっぱり。…どうしたの?
…俺に会えなくて、寂しかった?」
口だけは冷静に、いつもの調子でさらりと喋れてしまう。
そんな饒舌な自分の口に、初めて嫌悪感を抱いた。
自分の中でマニュアル化されている女への接し方、
それを葉月に対しては使いたくないと思う自分がいる。
「…寂しかったから電話くれたのかと思ったのになぁ。
間違えたのか…。残念。」
もはや癖となってしまっている自分のこういう言い回しを、葉月には崩してほしいとまで思う。
――どうかしている。
「……寂しかった、です…っ」
そして彼女は小さく言った。
俺が自分から促したというのに、心臓がきつく締め付けられて痛い。
浅くため息をついて、ふと窓の外を見る。
どこかで見たことのあるマンション名。
確か…確か、葉月の…
「俺に会いたい?」
そう尋ねながら、俺は車から降りた。

