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一夜草~ひとよぐさ~【華鏡(はなかがみ)】
第5章 源氏の一族
「可愛い奥さんに」
差し出された大きな手のひらには不似合いな小さな櫛は、黒塗りで白く桜が描かれていた。一箇所だけだが、小粒の真珠もはめこまれている。高かったに違いなく、楓は胸が熱くなった。
「ありがとうございます。大切にしますね」
櫛を押し頂くようにして眼を潤ませる妻を、時繁は切なげに見つめる。
「済まない、俺が甲斐性なしなばかりに、楓には辛い想いばかりさせる。お前も年頃の娘だ、綺麗な着物や紅も簪も欲しかろうに」