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僕たちはこの方法しか知らない(BL短編集)
第1章 Like A Cat

俺もヤツの横に転がって、そっと背中をなでてやる。最初びくりと怯えたように反応したが、ゆっくりと俺の方へ顔を向けると安心したように力が抜けた。
「アンタのセックスまじやばい。死にそうー……」
腕枕をして胸に抱きこんでやる。
最中は苦しいのが好きなくせに、事後は優しいのがお好みらしい。――いや、ほんとはセックスも優しい方がいいんだろうが、痛めつけられることに慣れすぎた体はそれを快楽と勘違いしているようだ。
ヤツは額を俺の胸にこすりつけながら、スンスンと匂いをかいでいる。
汗か精液の臭いしかしないと思うが、ヤツはいつも俺の匂いをかぎたがった。別に悪い気はしないのでそのままにしておく。
「なあ、餌くれよ。気持ちよすぎて腹へった」
「ちょっとは俺にも休憩させろって」
そう言いながらも、俺はヤツの髪を撫でてベッドから起き上がった。
ヤツは『食事』や『ご飯』といった言葉を使わない。いつも自分に与えられる食べ物を『餌』と呼んだ。
歪んだ快楽にこの言葉使い、まともじゃないことはすぐにわかっていた。このままここにヤツを置くことに、危険性があることもわかってる。それでも俺はヤツを手放せなくなっていた。
飼育しているつもりはない。ただ、このまま一緒に過ごして少しずつでも”普通”になってほしいと思っていた。普通の幸せを教えてやりたいし、本当の愛情を与えてやりたかった。
土砂降りの雨の中、傘をさしていても濡れる状態なのにもかかわらず、ヤツは肌着のように薄い服だけでふらふらと近所の路地を歩いていた。首には太いものが巻きつけられていた赤い痕。髪はぼさぼさで異常にやせている。年は十代だろう。
気がついたら俺はヤツに声をかけていた。
なんて言ったのかは覚えていない。
ただ、それに振り向いたヤツの目が真っ暗に曇っていたことと、それを含めてもあふれ出る魅力を感じてしまった。
ヤツは言った。
「おじさん、オレに餌くれるの……?」
「餌……?」
「もうくたくただし、ずっとなんも食ってないん――」
言い切る直前にずるりと崩れたヤツを、俺は傘を放り出して抱きとめた。そして、その軽さに驚いた。さっきの傘の方がよっぽど重いんじゃないかと思うほどだった。
傘を拾うと駆け足で自宅へ運んだ。

