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Only you……
第6章 明 3

「ここだよ!」

麻都は「ふーん」と言いながら店内へと入った。オレもその後に続く。

「いらっしゃいませぇ」

昨日の店員の声がした。店の奥からぱたぱたという足音が近づいてくる。

「あ、こんにちは」

「あぁ、昨日の。働く気になった?」

オレは麻都の方を振り向き、いいのかどうか様子をうかがった。

しかし、麻都はオレの方なんか見向きもせず、目の前の店員を凝視していた。そして店員の方を向けば、同じように驚いた顔をしていた。オレには訳が分からず、2人を交互に見ていた。

「か、が、み?」

店員の方が先に口を開いた。オレは「え?」と声を上げた。

――まさか、2人は知り合い?

「村中……だよな?」

麻都はいつもと違う微笑みを浮かべた。どこが違うかなんて具体的には説明できないが、強いて言えば雰囲気が違った。

「知り合い?」

オレはたまらず尋ねた。今度は店員よりも先に麻都は答える。

「あぁ、高校の時の同級生。村中 拓朗(むらなか たくろう)……だよな?」

後半の方はオレではなく店員――村中さんに念押ししているようだった。村中さんは頷いていた。

「久しぶりだな。元気してたか?」

「ん、まぁぼちぼちかな? お前ペットショップなんてやってんのかよ」

「まあね、オヤジの手伝いっちゅうか」

ここにいる麻都は、オレが見たことのないような表情をしていた。でもそれを羨ましいなんて思えなかった。今なら、りんさんが言っていた“今とは違う麻都”の意味が分かる気がする。完璧すぎる、近寄りがたい雰囲気。とても口を挟めなかった。

「このこ、お前の彼女か?」

くくっと笑って尋ねる村中さんに麻都は苦笑した。そしてオレはむっとしていた。

「女じゃなくて、男。俺のものには違いないけど」

「えっ! 男だったのかよ」

いつものことだった。オレが女に間違われるのは。顔が女顔なんだからしかたないと諦めたのは、随分と昔の話だった。

「じゃ、こいつのこと頼むわ。村中の店だったらまぁそこそこ安心だろう」

麻都はそう言ってオレの頭を撫でた。村中さんが「どういう意味だよ……」と言っていたが、無視された様子。麻都はそのまま店を出て行った。
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