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第29章 相克

　　　
『先生。
　私は先生の論には納得できません。
　先生は妻を愛した自分を恨むと仰った。
　それが、あなたの全てです。

　だったら先生はそこまでだ。
　涼子を私に奪われて
　先生と涼子との関係は終わる。
　結果そうなった。
　先生の言うように自分を恨んだっていい。

　確かに私は涼子を愛しました。
　でもそれを成就させることはできなかった。
　私は涼子に謝りたい。
　そう思って、過ごしてきました。
　
　でも、それは間違ってました。
　愛を失う覚悟ができずに
　愛しあう方が無責任なんです。
　
　過去に母を失ったとき痛い目にあいました。
　失うことが前提になっていなかったからです。
　
　あのホテルでの最後の夜、
　私たちは互いを失うことを
　前提としていました。
　別れると決めて愛し合ったんです。

　あなたの解釈と実際は違う。

　私達は互いに縛りあっていた愛を
　あの時 解いたんです。