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喘ぐなら、彼の腕の中で
第13章 回想
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ベッドから起き上がって、部屋の外に出ると
みんなが寝静まった暗い廊下を、1人でゆっくり進んでいく。
屋敷のようなこの家は、6歳の俺からすれば迷路のようにバカでかい。
それでも、あちこちを歩き回るうちに、2階の1番奥にある小さな扉の中から
男の啜り泣く声が聞こえてきた。
『………』
扉を開けて、月灯りがうっすらと差し込む中の空間を覗き込むと
高級家財道具が詰め込まれた一角に、膝を抱えたその姿を見つけた。
『……なぁ。
あんたって、社長なんだろ?』
俺が静かに声をかけると
その男はうずくまったまま、小さい声で答えてきた。
『莉央は社長って言葉も知ってるのかい?
すごいねぇ』
『あんたが自分で言ったじゃん』
『……今は社員5000人くらいいるかなぁ』
『それなら。
なんでこんな狭い所に閉じ込められてんの?』
俺が聞くと、父はのっそりと顔を上げた。
コワモテなんてレベルではない。
間違えたら裏の世界にいると、勘違いしそうな人相。
『うちの中では奥さんが1番偉いんだ。
俺は逆らえない』
『……顔、すげー腫れてるけど……』
『莉央が見てないところで、追加で10発殴られた』
父が俺を息子だと紹介した時
俺の母になる人は拳を振り上げると、そのデカい体を吹っ飛ばしたのだ。
その一瞬で
第一印象で感じていた、この家のピラミッド構図が
俺の中で見事に逆転した。

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