この作品は18歳未満閲覧禁止です

- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
その、透明な鎖を
第5章 夏が始まる
「凛」
彼は彼女を前にすると、もう抱き締めずにはいられなくて。
目の前にいる彼女の腕を、手を伸ばして掴んでそのまま引き寄せて。
自分の身体で抱き留めて。
ぎゅうっ、と。
「はあ……」
凛の、甘くていい香りがして。
彼は思いっきりそれを吸い込み、自分の中に満たす。
「夏休み、始まったね」
彼女の呟きに、黙って頷いて。
「いっぱい、一緒に過ごそうね」
また、頷いて。
それから少し、身体を離した。
そして、手に持った買い物袋を揺らす。
「昼、買ってきた。一緒に食お」
今度は凛が、頷いて笑う。
「……行こ」
そのまま彼女は彼の腕をとって歩き出そうとして、彼の手に繋ぎ直される。
少し汗ばんだその手のひらは、夏の暑さのせいなのか。
それとも――――。
「……なんか、緊張する」
小さく呟く彼に、彼女はきゅっ……と、その手を強く握って。
「ん」
それだけを、返した。
――無言のまま、ふたりは手を繋いで歩く。
向かうのは、彼女の家、だった。

作品検索
しおりをはさむ
姉妹サイトリンク 開く


