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くちなし
第1章 始
「こちらへ…。」

ある一角に白い花をつけている。
主張してくることもなく咲いている花。

「黒田。これがくちなし?」

「さようでございます。とても良い香りを楽しめますよ。
 他国ですと、ダンスパーティーなどで、男性が女性を誘うときに贈る花だそうです。」

「へー!そうなのね!黒田はやっぱり、物知りね!
 すごくイイ香り!!
 黒田も、私を誘うときはこの花を持ってきてくれない?!」
冗談っぽく言うが少し本気でもあった。

「お嬢様…。使用人である私のような者がお嬢様をお誘いすることはできません。」

黒田って、本当に真面目なんだから…。
冗談の一つでも言ったらどうなの?!

「わかってるわ。黒田。冗談よ。」

「気分を害してしまったのではないですか?」
心配そうに見つめられる。
そんな顔でみないでよ…。

「大丈夫よ!慣れてるもの!気にしないでね!」
私は、笑い飛ばした。

「恐縮です。」

「本当にイイ香り。ずっとここに居たいわ。」

「それは、行けません!温室とはいえ、風邪を引きかねません!」
必死に訴える黒田はかわいい。
黒髪だが色素の薄い瞳。
柔らかな口調。
低い響く声。
黒田に触れたらどうかなるのかしら?
動く手を止める。

「さぁ。お嬢様。お部屋へ帰りましょう。」
「また明日も、ここへ来たいの。この香り落ち着くの。」
「ええ。よろしいですよ。」
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