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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第13章
2階の最奥、昨夜使ったのは別のもう一つのツインルームに足を踏み入れた匠海は、奥のシングルベッドに華奢な身体を降ろし。
甲斐甲斐しく羽毛布団を掛けると、未だ頬を濡らしている涙の痕を、ベッドサイドに置かれたティッシュで拭ってくる。
「どうした? 怖い夢でも見たのか?」
「………………」
怖い夢――?
そうか。
ある意味 自分にとっての過去は、
今や甘やかな毒虫に浸食を赦してしまう、餌の様なもの。
「大丈夫だよ。寝付くまで傍にいるから」
ベッドサイドのランプに浮かび上がる兄の顔は、落ち着かせようとしてか柔らかな微笑を湛えており。
隅に腰を掛け見下ろしてくる男を、涙液で潤んだ灰色の双眸が真っ直ぐに見上げていた。
「眠くないのか?」
「………………」
数分前までは何かをしていないと、すぐにウトウトしていたというのに。
「今日はずっと寝てたから、目が冴えたかな?」
「………………」
一人で言葉を継ぐ匠海は、まるで沈黙を恐れているかの様で。
痛いほど強過ぎる下からの視線を誤魔化す様に、ポンポンと上掛けをあやしていた。
いつの間にか、涙は引っ込み。
涙液に滲んでいた視界は もはや何の遮りも無く、血の繋がった兄を明瞭に映していた。
羽毛布団を叩いていた筈の掌が、ゆっくりとその上を滑り、
辿り着いた先、生白い頬に一筋掛かっていた金糸の如きそれを、指先が静かに払う。
髪が枕の上に落ちる音よりも、きしりとスプリングを軋ませる音の方が大きくて。
ゆっくりと一つ瞬いた瞳の上 切り揃えられた前髪が、遠慮がちに長い指でサイドへと流される。
「……嫌なら、拒否して」
若干 掠れた声と共に、ゆっくりと降ってきた額への口付け。
微動だにせず それを甘受する妹に、兄は続けて こめかみへと柔らかな唇を押し付けてくる。

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