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一度だけ抱いて~花は蝶に誘われてひらく~
第1章 【残り菊~小紅と碧天】 始まりは雨
一人取り残された小紅は悔し涙を眼に滲ませた。あんな男が仮にも良人だなんて、仏さまも酷い。これも全部、おとっつぁんのせいだ。おとっつぁんが無責任にも多額の借金を残して若い女と夜逃げなんかするから、私がこんな憂き目に遭わなくちゃならない。
小紅がそっと目尻に堪った涙を拭っていると、遠慮がちに声がかけられた。
「お嬢さま、先ほどは勝手に持ち場を離れまして、申し訳ございません」
「あなたは」