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近くて甘い
第57章 紳士と獣
広い廊下で、男の怒鳴り声が響く。


ガラスから差し込む温かい光りを背中に感じながら…




「いい加減にしろっ!!」



「っ…もっ…申し訳ありませんっ…」



「何度言ったら分かるんだ!! いつまでも同じ事を言わせるなっ!」




「はひっ…!」





加奈子は、また噛みながら上司にぺこぺこと頭を下げていた。




復帰してから約2週間──…



温かく向かい入れられた…とも言い難いが、ようやくやめる前と同じように環境が戻ってきた。



「ったくっ…大体お前は…」



まだぐちぐちと言いながら歩き出した上司の背後に加奈子はくっついていく。



はぁっ…

どうして今日も、こんなに怒鳴られてるのかなぁ…




憂鬱になっていたその時、突然廊下の脇から手が伸びてきたかと思うと、そのまま身体を引っ張られた。




「っ…なっ…」



驚いて顔を上げると、ニッコリ笑った要が、人差し指を口の前で立てて、静かにするように、と仕草をしていた。




「っ……」




かっ、要副社長っ…




「……だからお前は、そうやっていつまで経っても…って、おいっ!田部っ!!! どこにいったっ!!」




振り返って加奈子がいないことに気付いた上司がまたわめきちらすのを、要は喉を鳴らしてクククと笑っていた。


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