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あの日 カサブランカで
第4章 ー再会ー

 役員なんかになってしまったら現場を離れなくてはいけないし、人やお金の管理仕事は向いていないので、と彼は苦笑いしながら言った。

「あの時も同じようなことをおしゃってましたわ」

 フェズの町で夕食を共にしながら建築の話をしていた時に、現場の楽しさを生き生きとした眼で語る村木野を麻美は尊敬と憧れの眼で見つめていたことを思い出していた。

「そうでしたっけ? 人間、そう変われるものじゃないですよね…」

 そう言ってから村木野はおおらかに笑った。



 店を出ると、12月の夜風が肌を刺したが、あまり飲んだわけではない酒に少し酔った麻美にはむしろ心地が良かった。

「よかったら、せっかくだからそこの毘沙門天に寄っていきませんか?」

「はい、ぜひ」

 神楽坂の真ん中に通りに面してある毘沙門天は、日中は観光地の一画として参拝する人で賑わい、夜には酔い覚ましで訪れる人も多いが、さすがに冬の夜は閑散としている。

「ぼく、学生時代にはよくここへお詣りに来ていました」

「そうだったんですか?」

「近くに美味しいラーメン屋があってね…」

「そちらが目的だったんですか?」

「そうとも言えますね」

 ふたりは顔を見合わせて笑った。



 箱の木に当たる乾いた音に続けて、溜まった硬貨の中に落ちる鈍い金属音とともにそれぞれの賽銭が消え、ふたりは相手の動作を感じながら同じように柏手を打った。

 眼を開いたのは村木野のほうが早かった。

 少しだけ遅れて眼を開けた麻美は、彼のほうを見ながら軽く会釈をするとうしろへ下がろうとして敷石に脚を引っかけた。

「危ない!」

 とっさに村木野をすがってつかまえようとした彼女の手が彼にしっかりととらえられた。

「すみません…」

「大丈夫ですか?」

「すみません、大丈夫です」

 足を取られたのは酒のせいだとは思わなかったが、彼がすぐに離そうとしなかった手を麻美も強く握ったまま、ふたりは足元を見ながら参道の石段をゆっくりと下りる。

 冷たくなっている手の甲とは反対に、麻美の掌は汗ばみそうだった。

「すみません、寒かったでしょ?」

「いいえ、気持ちいいくらいです」

 気遣いの声をかけた村木野に麻美は明るい声で返した。

「村木野さんの手があたたかい…」

 思わずつぶやいてむきながら麻美の口からそんな言葉がこぼれた。

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