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あの日 カサブランカで
第4章 ー再会ー

 新宿区にある神楽坂は昔、花街として栄えた名残がまだいたるところに残る風情ある街である。

 大学の仕事を終えてから中央線に乗り、飯田橋の駅で降りた麻美は眼の前の外堀を越える橋を渡って、急な登りの始まる神楽坂をゆっくりと上がった。

 以前は古い料亭や小料理屋が並んでいた坂の両側には、今やカフェなどの新しい店が並ぶようになり行き交う人も多くが観光客と思われたし、古民家のあった路地も開発されてマンションに変わり、かつての趣のある街の佇まいは失われつつあった。

 そんな中で、圭一が待っていると知らせてくれた日本料理の店は、クリスマスが近い喧騒の届かない静かで、どこかかつてふたりで歩いたフェズの旧市街を思い起こさせるような狭い路地裏の目立たない店だった。

 店の名が書かれた小さな行燈の掛かった連子格子の引き戸を開けて入った麻美が村木野の名を告げると障子で隔てられた小上がりのある個室へ導かれた。

 半分が開かれていた障子に隠れた席に座っていたのは、ネクタイの紫が黒のスーツに映える20年ぶりの村木野圭一だった。

「ああ、よく来てくれました」

 腰を少し浮かしながら笑顔を浮かべた彼が向かいの席へ手を差し伸べる。

「遅くなってすみません。 失礼します」

 スカートの裾をたたみながら少しだけ緊張した顔で麻美は腰を下ろした。

「ご用意してよろしいですか?」

「お願いします」

 店のスタッフに声をかけられた圭一が返事をし、閉められようとした障子を開けておくように付け加えた。



「ずいぶんご無沙汰しました」

「ほんとうに… 申し訳ありませんでした…」

 詫びるのは何度目だろうとふと思いながら、麻美が頭を下げると圭一が笑いながら手を振り、「会えてよかった」と胸の奥から吐き出すように言った。

「ほんとうによかったです」

「やっと… でしたね」

 圭一のその言葉を聞いて、「やっと…」と思わず麻美も重ねてつぶやいて笑った。

「お元気でいらっしゃいましたか?」

「おかげさまで…」

「ずいぶんご立派になられて…」

「それは、あなたのほうこそ…」

 お互いにそんな謙遜をしながらふたりは同時に笑った。

 過ぎた長い歳月の間に、それぞれが確かな成長を遂げて責任ある立場に就いていたのだった。

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