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男の妄想エッセイ
第3章 うつくしい女たち〜片岡義男のエロス
読書のエロス体験は、中高生の頃に読んだ片岡義男の小説が初めてだと思う。あらかじめ誤解の無いように前置きするなら、いわゆる官能小説ではまったく無い。そのジャンルからかけ離れたドライでクールな文章で構成された作品たちだ。

片岡氏の小説に登場する女性たちはみんな美人だ。すらっと背が高くて手足が長くて知的で教養があって、おしゃれで、時には大型バイクに乗り、仕事でも恋愛においても自立している。

そんな彼女らの仕草や日常の描写が仔細に延々と描かれるけれど、何を思いどんな気持ちで何を考えているのかは説明されないという、書かれている文章のみでしか物語を理解できない読者にとっては何だかわからない小説だ。私だって理解し難い。それなのになぜか惹かれ、なんだかエロい。

たとえば。

一人住まい(大概、広い部屋にひとり住んでいる)の女性がベッドで目覚め(大概、キャミソールやショーツしか着けていない)、すらっとした長い足でベッドから降りる(床はフローリング一択)。朝日が差し込む窓に歩み寄り、外を眺め、トーストとコーヒーの朝食のあとにシャワーを浴びる。

こんなシーンを気取らずに淡々と描写する文章なのに、なぜか色っぽい。

カップルのシーンで交わされる会話は他愛のないもので(リアルなカップルの会話も大概はそんなものだ)、艶っぽい会話なんてぜんぜん無いのに、キスすらもしていないのに、エロい。きっと書かれていない行間で、きっとエロいことをしている、私はそう感じた。

片岡氏のある小説で、大型バイク乗り同士の男女が出会い、お互いに惹かれるけれどそんな会話はひとかけらも無く、出会って離れて、しばらくして経ってからヒロインが男に会いに行き、言葉少ない会話のあとに、エンディングの一行で長身で美人なヒロインが、恥じらいを滲ませながらもこう言う。

「私と寝て」

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