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溶け合う煙のいざないに
第3章 欲望の赴くままに

 最初の相手はマッチングアプリで出会った五十を過ぎたおっさんだった。
 当時二十歳だったオレはただただ挿れられてみたいという好奇心に溺れて、言われるがままにフェラも自慰行為もやって見せた。
 それは楽しかったけど、満ち足りることは決してなくて、翌日から痛くなった尻と腰に、代償としてはでかすぎないかと不満だった。巧い相手ならいいのかとマッチングを続けたが、何かが違った。
 それから十年以上経って、未だにパートナーが出来ていないのは自分が少数派だということのなによりの証拠だ。
 ベッドに片膝を乗せ、枕もとのライトを操作しながら、過去に想いを馳せる。ぺたぺたと足音が近づくのを聞いて口元が緩む。どっ、どっ、と心臓がうるさい。
 だって、あの言葉を聞いた後だから。
「正直芦馬さんがバリタチでも全然よかったんだけどさ。今ね、オレね、爆発しそうなくらい嬉しいんだよね」
 青い照明にピンとこず、結局暖色の暗い照明に落ち着き、ベッドの奥に仰向けになる。隣に横になった芦馬の表情がさっきよりも読めない。
 暗すぎたか。
 いや、眼鏡をかけ直しているからかな。
 裸眼の方が気持ちが滲み出る。
「今までさあ、相手が言う方に合わせてきたから」
「俺もだ」
 やっと聞こえた低音に、安心して体を寄せる。
 四つもある大きな枕に深く頭を沈めながら視線を合わせると、さっきまでのワンナイト前提の警戒心が互いに消えているのがわかった。
 だって、確率的にえぐいんだよ。
 互いに許容範囲内で、性癖が一致するなんて。
 ありえないんだよ。
 ありえなかったんだよ。
「でも芦馬さんサドだけは揺るがないでしょ」
「そっちは?」
「従いたいね」
「即答か」
「これも、”待て”?」
 雑談を楽しむ余裕なんて一ミリも残っていない。
 身を起こしながら、芦馬の腹を跨ぐ。
 体重はかけずに、膝立ちで見下ろすと、小さな照明が照らした黒い瞳が真っすぐこちらを捉えていた。脱力している陰茎の柔らかい感触に下唇を緩く噛んでから、口を開く。
「待てないんだけど」
「……話も出来ない?」
 白いへそ周りを両手で撫でる。
 びくついた腹筋を愛しく指先で押してみる。
 ああ、苛ついた顔も最高。
「駄犬ですから」
 溜息がゴングのように、肩を掴まれたと思うと反転して押し倒された。
 容赦のない握力に肩が軋むのすら嬉しい。
「鐘二って呼べ」
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