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天狐あやかし秘譚
第34章 【第9話 姑獲鳥】報恩謝徳(ほうおんしゃとく)
いつもの場所に、いつもの格好で、あの女、環の母は立ち尽くしていた。目はどんよりと濁り、辻の中央、車が行き交うあたりを見ているのだろうとまではわかるが、まさしくはどこを見ているかよくわからない。

「環は近くまでも来ぬのか?」
「うん・・・ここで見ている」

『おうだんほどう』の渡り方については綾音から聞いて、知っていた。向かいの灯火が『みどり』に灯れば渡って良い、という合図だ。

『みどり』になったのを見計らい、キョロキョロと見渡す。車は走ってこないようだ。ホッとして渡った。まあ、拙者はあやかしであるから、車にぶつけられても死ぬことはないだろうが、痛いものは痛い。あのような鉄の塊が矢のようなスピードで走っているのだ、人ならばあっという間に轢き潰されてしまう。

さて・・・近くまでは来た。
この絵をとりあえず渡してみようか・・・。声を・・・かけたら振り向いてくれるだろうか。

名を・・・と思った時、環から母の名を聞いていなかったことを思い出した。しかし、ここで踵を返すわけにもいかないと思い直し、思い切って声をかけた。

「環殿の・・・母君とお見受けする」
ごくり、と喉が鳴る。
環の母がふらりと、こっちを見た。その目はやはりどんより濁っている。

「なに?あなた・・・。環の友達だった・・・かしら?」
意外とあっさりと話ができたので若干拍子抜けした。これならば・・・。
「いや、環殿に頼まれて・・・母君にこれを『くりすます・ぷれぜんと』として渡してほしいと・・・」
持ってきた紙を開いて見せた。
「これ・・・環・・・」
環の母の目が震える。その震えはたちまち全身に伝わり、わなわなと体全体が震えだした。
「これ・・・いつ・・・?」
「今朝方仕上がったところじゃ。環と拙者とで作ったのじゃ」
正確には、環の指示の元、拙者が作った・・・のだが、まあいいだろう。
「今朝方・・・」
そう言うと、「ははっ」と息を吐くように環の母が笑い出した。最初は小さく、次第にその笑いは大きく、大きくなっていって・・・最後にはボロボロと涙を流し始めた。
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