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第90章 末路窮途（まつろきゅうと）

包丁を、ナイフを、鉄パイプを、メリケンサックを・・・思い思いの武器を持って男たちがにじり寄る。目的は明らかだった。

復讐

皆、『母』に人生を狂わされ、破滅に追いやられた男たちだった。嬲り殺しにする気だ・・・異常な興奮に目をギラつかせた男たちが俺と『母』を追い詰めていく。

言葉も出ないまま『母』は廃工場の壁に追い詰められる。一人の男が包丁を振り上げ、襲いかかってきた。咄嗟に顔を庇った俺の腕に鮮烈な痛みが走り、赤い血がぱっと中空に舞った。

まるで景色がスローモーションのように見えた。その男を皮切りに、次々と男たちが躍りかかってくる。その光景がゆっくりと、ゆっくりとして見えた。

絶望が恐怖を凌駕し、震えることさえなかった。
頭が痺れたようになり、耳がキーンとする。

俺は、死を直感した。

刹那・・・目の前に襲いかかってきた男の首が消えた。
身体だけがドサリと重力に従い、倒れる。頸動脈が切れたからだろう、首の切断面から大量の鮮血が吹き出し、不自然に痙攣をしていた。

男どもが悲鳴を上げ、一斉に踵を返す。
何が・・・一体何が起こった？

目の前に倒れた男の痙攣が終わり、動かなくなったころ、やっと俺はなにか異常なことが起こっている、しかもそれは自分のすぐ隣で起きていることを悟った。

ゆっくりと右側を見上げる。そこには先程まで『母』がいたはずだった。

左手から血を流していた『それ』は確かに先程まで『母』だったものだった。しかし・・・

「あ・・・あ・・・あ・・・」