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彼女はボクに発情しない
第22章 陽気な家族のための小舞曲
喬さんが税務署の職員と一戦交えた話をしたかと思えば、正美伯父さんのアメリカでの本当かどうかよくわからない武勇伝を語りだし、その合間に八知おばさまが陽太や風香ちゃん、私の小さい頃のエピソードを披露し、それにおじさま達が更に話題を追加する。
陽太や風香ちゃんも負けてはいない。学校での話、お友達とでかけた話、友達にゲームでこてんぱんにされた話など話題は尽きない。
聞いているだけで、私はお腹の底から笑い、すごく楽しい時間を過ごせた。

「お!そうだ。奏ちゃんもどうだい、一杯?」
正美伯父さんがウィスキーを私のコップに注ごうとする。
「あら〜ダメですよ、正美さん。まだ飲めないんですよ〜」
八知おばさまがやんわり止めてくれる。
「え?そうなの?アメリカならいいんだけどなー」
「いや、兄さん、アメリカだって17歳はダメでしょう?」
「なんだ、まだ17か?俺はてっきりもう20歳過ぎているかと」
じゃあ、こっちだな、と正美伯父さんが緑色のジュースを注いでくれる。

ああ!いい匂い。マスカットだ。

あまりにフレッシュなマスカットのいい匂いだったので、私は一息で飲み切ってしまった。
その瞬間。

ドキン、と、心臓が高鳴って、体中が内側から熱くなった。
世界がグルンと一回転した。

「はれ?」

最初に思ったのは『発情』した!ということだった。
でも、なんかいつもと違う。いつもより、ふわふわと良い気持ちだ。

「なんら・・・これ?」

世界がくるくる回る。なんだか無性に楽しい気持ちだ。
わー・・・すごい・・・陽太・・・楽しい、楽しいよ、私!

ふわっと意識が薄れていく。薄れていく意識の中、八知おばさまの声が最後に聞こえた気がする。

「あら〜正美おじさま・・・これ、マスカットリキュールですよぉ〜」

そのままクラリと、心地よく私の意識は闇に沈んだ。
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