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絶対に許さないからね
第4章 愚かな母
改札を通り、詩子と手を繋ごうと手を差し出したけど無視された。
まだ拗ねているようで、
電車の中でも全然しゃべらなかった。
まあいい。
小さな駅なのではぐれようもない。
外はあまりにも強い日差しで、
立ち眩みしそうなくらいだった。
短くクラクションが鳴り、そちらを見ると、
兄の正孝が迎えにきてくれているのが見えた。
軽くて涼しそうなTシャツと麻のズボンという軽装の兄は、
もうすっかりとこの町に馴染んでいるように見える。
裸足にサンダル、首にはタオル。
隣の公園から、子どもたちの歓声が聞こえてくる。
父が病気で倒れ、介護が必要になってから、
兄は実家に戻った。
父さんの介護は、全部母さんがやってる。
おれにはなにもやらせてくれねえよ。
兄の言葉が、あのときと同じ温度、
同じ質量で、耳の奥によみがえる。
そしてそれを聞いたときのわたしの感情も、
はっきりと、くっきり戻ってくる。
罪滅ぼしのつもり?
そんなので許してもらえるって思ってんの?
きっとあのときのわたしは、
詩子には絶対に見られたくないような、
嫌な女の顔をしていたに違いない。

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