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~疼き~
第2章 追憶
そこは、とてもひんやりとしていると夏海は感じていた。
霊安室に入ると蠟燭が2本立っていて灯りが灯され線香の香りが漂っていた。
白いシーツを身体に掛けられて、顔には白い布が掛けられている身体が横たわっていた。
夏海は恐る恐るその白い身体に近づいてゆく。
検死官らしい人物が顔に掛かっている白い布を取ってくれた。
夏海は一瞬、目を瞑ったが、恐る恐る目を開けてそれを見た。
そこには、青白くなった顔をした蒼の姿があった。
車で跳ねられた割にはとても綺麗な顔をしている。
まるで、眠っているかのような顔つきだった。
夏海は目からみるみるうちに泪が溢れてくるのを感じていた。
その泪は柔らかな頬を伝って流れて行った。
「岩崎蒼さんで間違いありませんか?」
夏海は一拍置いてからこう答えた。
「はい、間違いありません、蒼です…」
「お辛いところありがとうございました」
警察官がそう言うと霊安室から検死官と共に出て行った。
夏海は蒼と二人だけになった。
「あ、お、い…」
そう言うと夏海は蒼の身体を抱きしめていた。
その身体はとてもひんやりしていて冷たさを感じるものだった。
夏海は蒼の身体を抱きしめながら泣いていた。
その泪は止まることを知らなかった。
夏海は今朝の出来事を思い出していた。
あれが、最後の別れになるとは思ってもいなかったのだ。
霊安室には静かに線香の香りだけが、ただ緩やかに漂っていた。
その香りは二人を優しく包み込んでいた。

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