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女の性癖、男の嗜好…(短編集)
第25章 梨香 32歳
「今夜は遅くなるから先に寝ていていいぞ」
その夜、夫が洒落たカジュアルに着替えながらそう言った。
「あ、そうね、今夜だったわね」
遅くなるからという符号で
今夜は農園関係者の寄り合いがあると以前に夫が言っていたのを思い出しました。
月に何度かそう言って夫は家を抜け出します。
どうせ寄り合いとか言いながら
居酒屋で呑んだくれるだけなのは明らかです。
田舎ではこうした付き合いが大事なのだと
舅から聞かされていたので
行くなとも言えずに私は笑顔で夫を送り出しました。
その後を、やけに念入りに化粧した姑が「待ってよ、私も出掛けるから街まで送ってちょうだい」と
車に乗り込む夫の後を追いかけます。
「あら?お義母さんもお出かけですか?」
「そうなのよぉ、カラオケ同好会の呼び出しよぉ
まあ、これも付き合いのひとつだから顔を出さないと行けないのよぉ」
私に対していつもはツンケンな口調なのに
夜遊びがよほど嬉しいのか
その言葉には嬉々としているのが丸わかりでした。
「あ、そうそう!うちの人、居間で晩酌しているからお相手してやってね」
自分は旦那さんを放っておいて遊びに行くクセに
その後のことは私に世話しろというのだから腹立たしくて仕方ありませんでした。

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