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第129章 最後の調教（啓介の想い）

9月9日（金）
20時10分

啓介は自室のモニターの前で固まったままだった。
ウイスキーは控え、新しくいれたコーヒーの湯気が冷めるまで、キーボードにセットした両手は動かず、そのままだった。

これで、最後だ。
「愛おしい天使」との甘美なチャットのやり取りも無くなるのだ。

還暦を過ぎての最後の恋。
熱く、むず痒い想いも。

これで本当に最後になるのだ。

少しくらい、感傷に浸ってもいいんじゃないか？
自分に甘えるように心の中で呟いた。

今夜だけは。
自分に浸って眠ろう。

そう思った、情けない男に。
準備したが飲まずに脇に置こうとした、ウイスキーの水割りがパジャマにこぼれた。

冷たい感触に苦笑いしながらも。
啓介は、最後の宴へ向けてのメッセージを由美に送る踏切りがついたのだった。

「さあ・・・これが、最後の調教・・・
　由美・・・覚悟・・・してください」

フッと口元を緩める啓介の瞳は切なさに少し、潤んでいた。