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私は管理人
第6章 久孝さんと玲子さん
「実は今日お邪魔したのは…」
わたしは気乗りしませんでしたが
管理人として住人同士のいざこざは避けたいとの思いから重い口を開けかけました。
「そんな硬い挨拶は抜きでいいわ
今、お茶を淹れますからちょっとだけ待っててね」
私たちをテーブルに着席させると
脇坂さんはそそくさとキッチンに立ってしまいました。
桜本くんはと言えば
奥の部屋の片隅に置かれている小さな仏壇を眺めていました。
「旦那さん…お亡くなりになったんですか?」
仏壇の遺影を見つめながら
桜本くんはキッチンの脇坂さんに目もくれずにそう言いました。
「ええ…私を置いてさっさと逝ってしまったわ」
明るい口調だった脇坂さんの話し方が急に暗くなりました。
「もしよければお線香をあげたいのですが…」
ここへ来るまでは文句を言うんだと息巻いていた桜本くんもなぜだかシンミリとした口調でそう言いました。
「まあ!それは主人も喜ぶと思うわ
是非、線香を焚いてあげて頂戴」
そう言われて失礼しますと椅子から立ち上がると
静しずと仏壇の前に正座して
線香に火を着けました。
「ああ…この匂いです…
朝晩、必ず匂ってくるんです」
手を合わせながら桜本くんは匂いの元を確かめたようにそう言いました。

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