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第12章 トラップ

奈緒がどこに消えたのか、それはわからない。
だが智輝にも日常はある。
いくら人生最大の愛であっても社会人としての責任はいつまでも放置できない。
二日間も会社を休んだことを謝った後、溜まった仕事を慌ただしく片付けていく。
皮肉なことに奈緒への辛い想いも仕事に追われていると忘れることが出来た。
職場の同僚も風邪は治ったかと聞く程度でなにも変わらない一日が過ぎる。
仕事が終わる頃になっても奈緒からの連絡は当然なかった。
仕事を終え、家に帰るとやはり心に穴が開いたような空洞感に苛まれる。
(せめて無事かだけでも知りたいな……）
智輝のそんな気持ちも奈緒には届かず、次の朝はやって来る。
感傷的になったところで時間はいつも通り進む。
智輝は満員電車に揺られ、職場に向かいながらため息をついた。
(こうして奈緒のことも俺の中で薄れてしまうのかな……）