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黒い瞳
第3章 淳子~6歳~
翌朝、母の機嫌がすこぶる悪かった。
八神が帰った後は、さらに機嫌が悪くなり、
お腹が痛いと言って寝床に臥せてしまった。
八神の、お股の角(つの)はひょっとしたら、
お母ちゃんの機嫌をよくする注射なのかもしれないと淳子は思った。
昨夜は、襖がカタカタ揺れなかったから
お注射をしなかったんだ。
だから、お母ちゃんの機嫌が悪いんだ。
そう思うと辻褄が合うように思えた。
次の土曜日の夜も、八神はやってきた。
夕食を食べていると、
ガラス戸をガンガンと激しく鳴らされた。
どうやら、来客のようだ。
母が「はい?」と言ってガラス戸を開けると、
ガラッとさらに激しくガラス戸を開け、
恐そうな二人の男がズカズカと入ってきた。
呆気にとられる母を尻目に、
黒い手帳をかざし、八神に向かって
「警察だ!八島昭雄だな?結婚詐欺の容疑で署まで一緒に来てもらうぞ」と叫んだ。
八神(矢島)は、くつろいでいたので、
逃げるタイミングをすっかりなくしてしまったようだ。
二人組みの刑事のうち年配の方が、
逮捕状を八神(矢島)の目の前に突きつけた後、
銀色の手錠を静かにかけた。
カチャリ、
その音に反応したかのように、
母が飛び込んできて叫んだ。
「何をおっしゃっているのかわかりません!
この人は八神明人っていうんです。
その矢島なんとかっていう人じゃありません!」
若い方の刑事が母に諭すように話しかける。
「八神明人は詐欺を図るときのこいつの偽名なんですよ」
「そんな・・・そんなのなにかの間違いです!」
半狂乱で暴れる母の体を
若い刑事がやさしく抱きしめた。

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