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戦場に響く鈴の音
第35章 思惑

冗談じゃないと佐京に言い返す言葉を考える間に佐京は
「姫さんは琴を弾いてたんじゃないのか?中途半端な音だけしか聞こえなかったが、水野や与一のガキは姫さんの琴が聴けると期待をしてこの屋敷へ乗り込んだというのに…。」
と耳をほじりながら嫌味を言う。
「水野と与一を伴ったのか?」
佐京に聞けば
「旦那…。」
と戸の向こう側から茂吉と与一が顔を出す。
佐京とは違い、黒崎以外での屋敷に慣れてない茂吉と与一は不安気な面持ちで目を泳がせている。
「柊の遊郭から回収して来てやった。与一が随分と派手に遊んだらしいが支払いは大殿様がやってくれると約束をしてくれたので問題はないな。」
佐京がゲラゲラと笑えば
「嘘を言うなっ!派手に遊んだのはお前の方だっ!」
と顔を真っ赤にした与一が叫ぶ。
「何事で在らせられるか?」
佐京や与一の騒ぎに雪南と多江が駆け付け、俺と鈴の部屋はとんでもない無法地帯となる。
「おっ?与一のガキが色を覚えたと思えば、姫さんの付き人のお嬢ちゃんまで色気付いてやがる。嬢ちゃんに色を付けてやったのは概ね、蒲江の坊や辺りって寸法か?」
佐京が女子姿の多江を茶化せば
「ヒィィッ!?」
と顔を青くする多江が叫ぶ。
「主の前で下賎な物言いを…、そこに直れっ!佐京…、今すぐにでもその大口を切り刻んでやる。」
とうとう、俺の前で佐京に侮辱を受けたと激怒する雪南が刀を抜き、混乱は頂点に達する。
「雪南、刃を引けっ!ここは汐元様の御屋敷だ。佐京も…、主の命令が聞けぬと言うならば神へは連れて行けぬ。」
黒崎の主として場を収めようとしたが
「俺は大殿様の命令でここへ来たのだ。坊や達の命令なんか聞く必要がない。」
と佐京の奴は開き直る。

