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昼想夜夢~君、想ふ~
第15章 君、想ふ
耳の奥で、遠いあの日の雨の音が聞こえる。
彩花を見つけ、彩花を失ったあの日の雨音。
頭の中が真っ白だ。
もう、何も考えられない。
ふらつく足取りでマンションを出た。
ここにいても、もう彩花はいない。
仕事に行くとか言ってたけど、あれは電話を切るための嘘か…。
耳の奥で聞こえる雨音。
そして、残る彩花の最後の声。
「さよなら」と、寂しそうな声で囁いていた。
「………。」
あー…、会社に戻らねぇとな。
仕事の途中でいきなり抜け出してしまった。
しかも何の連絡も入れずに長時間も席を外してしまった。
スマホなんて見てる余裕なかったけど、きっと今頃、部長から怒りの連絡が入ってるだろうな。
今頃帰ってももうクビかも知れねぇな。
もう、何もかもがどうでもいい。
何も考えられないまま、どこに行くでもなく彩花のマンションを出てふらふらと歩いていると
「小川さん」
後ろから俺の名前を呼ぶ声が聞こえた。
は?誰だよ…。
こんな所で俺の名前を呼ぶなんて…。
名前を呼ぶということは俺の知り合いだろうけど、こんな真っ昼間の住宅地で知り合いに会うはずもない。
いや、この場所で俺の名前を知ってる奴なんか一人しかいない。
こうなることは何と無く予想出来ていたんだ。
心のどこかで、覚悟はしていたことだ。

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