この作品は18歳未満閲覧禁止です

- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
私を抱いて…離さないで
第2章 人と金と…
タクシーが、それなりに年季の入ったアパート前に停まる。
カチ、カチ、カチ、……と規則的に点滅するハザードランプ。
濡れた道路に塗り広げる、鮮やかな橙色。
雨足はだいぶ落ち着いたものの、まだしとしとと雨が降り続いている。
タクシーの後部ドアが開き、足を下ろす。と、先輩がビニール傘を広げてくれた。
「送るよ」
「……え、あ……いえ……」
一緒に降りようとする先輩を、慌てて止める。
これ以上は申し訳無い気持ちもあるけれど……このままだと、部屋に上げる流れになりそうで……
「すぐ、そこなので……」
「………そっか」
「……」
先輩が、心配そうに私の顔を下から覗き込む。
「じゃあこれ、使っていいから」
手渡された傘。
咄嗟に受け取ってしまったけれど……
「……あの、先輩……」
「風邪引くなよ」
パタンと閉まるドアの向こうから、先輩が笑顔で手を振る。
ここまで送ってくれた事も、タクシー代の事も、駅で助けてくれた事も……
まだ全部、お礼を言えてない、のに……
「……」
ポッカリと空いたその心に、先輩の優しさが沁み広がった。

作品検索
しおりをはさむ
姉妹サイトリンク 開く


