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官能小説家のリアル
第7章 溜息

「酒、呑むようになったの?」
「ううん。今日だけ……」
返事を聞き、直哉は話を始める。
「あの編集長と、会ってるのか……?」
美波が首を振る。
「仕事での連絡は取るけど、二人では会ってない。そういう仲じゃないから」
その言葉で、直哉は心のどこかで期待してしまう。
「私は、直哉に会いたかったよ……。一度マンションに行ったけど、いなくて……」
「オレも何度か、会いに来た。でも、留守で……」
二人は驚いて見つめ合った。
「電話じゃ、嫌だったから……」
直哉が美波を見つめたまま言う。
「私も、電話で別れるのは、嫌だったから……」
二人は同じことを考えていた。
別れは覚悟していても、会ってきちんと話をしたい。嫌われていても構わないが、真実を告げたい。
謝りたい。許してもらえなくてもいいから、きちんと謝りたい。
「直哉? ちゃんと聞いて欲しい。そう言うと、美波はグラスを空けてから話し始める。
飯野と会っていた理由。その前に恥ずかしいことを訊いてしまい、恋人がいると言えなくなってしまったこと。そして、飯野に交際を申し込まれていることまで。桜子についても説明し、三人で会ったのも包み隠さず全て。
話を聞き終えた直哉が、溜息をつく。
「そう、だったのか……」
全てが自分の思い込みから始まったと考え、直哉は頭を下げた。
「ごめん。ホントにごめん。いくら謝っても、謝り切れないけど。謝るしか、出来ないから……」
美波が首を振る。
直哉に分かってもらえればいい。美波はそう思っていた。この先どうなろうと、真実を分かって欲しかっただけ。
「オレの話も、聞いて欲しい。嫌なことかもしれないけど……」
「うん。平気……」
言ってから、美波はまたビールを注ぐ。
何を言われるのか怖かったせい。緊張で酔いは感じないが、直哉が帰った後も呑み続ければいいと思っていた。
「25歳の時、恋人がいた。合コンで、会って。半年くらいで、別れたけど」
二人が付き合い始めたのは一年半前。過去なら、美波も嫌ではない。美波だって、過去に恋人はいた。

