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妹
第7章 十五夜(満月)

「……申し訳ありません……何も知らずに失礼な発言を」
頭を下げる東海林を武田が制す。
「いえ、当然です……。しかし今、貴方がたが感じた恐怖を、十三歳の雅ちゃんは誰にも相談出来ずに、ずっと独りで耐えてきました――何故でしょうね?」
武田は感情のこもっていない声で淡々と話す。
しかしその目は、心の奥底から沸き上がる怒りで揺れていた。
「この半年、雅ちゃんを診てきた医師、友人として一言、言わせてください。鴨志田さん……。貴方、雅ちゃんを中途半端にしか愛せないのなら手離して下さい。いっそその方が雅ちゃんには幸せかもしれない」
武田の真っ直ぐ月哉に注がれる眼差しを、言葉を、東海林は何とも言えない気持ちで受け止めていた。
言われた本人の月哉は魂の抜けた抜け殻のように、茫然自失の様で武田を見ていた。
「まあ、僕も見返りを得て処方するなんて、不純でしたがね」
武田は月哉から視線を外し、椅子に腰かける。
「……そういえば、見返りとはなんだったのですか」
東海林が問う。
「雅ちゃんが制服姿で薬を取りに来ることと……、献体に申し込むことです。雅ちゃん『長く生きるつもりはない』と言っていましたから――」
武田は遠い目をして、ポツリと呟いた。
月哉と東海林は、雅の待つ病院に帰る車の中で、お互い一言も言葉を発しなかった。
静かな車内に月哉の携帯電話が鳴る。
「……敦子だ」
「社長……雅様が目を醒まされたら、暫く高嶋先生を引き合わせないで頂けませんか?」
電話に出ようとする月哉を遮るなどしたこともない、従順な秘書が話しかける。
「……何故だ? 雅は敦子の事をお姉様と呼んで慕っているのに」
「……鈴木さんに確認したのですが、自殺される前の雅様に最後に面会されたのは、高嶋先生です――」
「……――っ」
月哉が絶句している間に携帯電話は切れた。

