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妹
第14章 有明月

「ママ! 見てみて〜!」
本邸の一面芝生張りの裏庭を、私の一人息子の月都が転げるように駆けてくる。
その後ろには、乳母が転ばないか心配顔で付いてまわっていた。
「なあに、月都?」
鴨園学園高等部のブレザーとグレンチェックのスカートを着た妹の雅が、お茶を飲んでいたウッドデッキから降りて、腕に飛び込んできた月都の小さな身体を受け止める。
三歳になった月都の身体はまだ小さいけれど、十七歳で身長百五十五センチの小柄な雅はいつも「日に日に抱っこするのが大変になるわ」と月哉に幸せそうに零していた。
「あのね、花壇で見つけたの、はい」
月都は握り締めていた小さな拳を開く。
その中には潰れたラズベリーと思わしき赤いものがあった。
「……あれ?」
持って来る間に握ってべちゃべちゃになってしまった実を見て、月都の表情はみるみる半べそになる。
「まあ月都、泣かないで。ママ嬉しいわ」
雅は微笑むと、両手をとってその赤く小さな掌に口付けた。
唇が赤く染まるのも気にせず「甘酸っぱい」と微笑んで見せるが、月都は「こんなのじゃダメ……」としゅんとしたままだ。
「月都様、このカゴを使えばラズベリーも潰れないですし、一杯採れますよ」
後ろから使用人のお仕着せを着た東海林(とうかいりん)が、クッキーを盛り付けていた小さな藤かごを差し出した。
東海林は月哉の仕事上の秘書だったが、月哉と雅から請われ、二年前から本邸の使用人頭見習いとして住み込みで仕えてくれている。
「東海林、ありがとう! ママ、僕、ママの為に一杯採ってくるから待っていてね!」
籠を受けとると、月都はまた一目散と庭へ駆け出していった。
「月都、転ばないようにね」
雅は苦笑いしながら、駆けていく背中に声をかける。
「絶対、あのわんぱくさはお兄様譲りだわ」
隣に立つ東海林に、雅は大げさに肩をすくめて見せる。
くすくす。
一部始終をウッドデッキで紅茶を飲みながら見ていた私は、寛いだ気分で笑う。
「なあに? お兄様」
制服のスカートの裾についた葉っぱを払いながら、雅は幸せに満ち足りた顔で私を振り替えった。
綺麗に手入れされた長い緑の黒髪がさらりと揺れる。

